マーケティング戦略が必要な理由

前回マーケティングの定義について簡単に理解する二つの視点をご紹介しました。マーケティングの定義がそもそも何かよくわからないという方はこちらの記事を確認いただければすぐにそのポイントが理解できます。

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今回はマーケティング戦略がなぜ必要なのか?という問いに対して、簡単に分かりやすく解説したいと思います。また、マーケティング戦略において、押さえておきたい考え方やフレームワーク、事例等も今後適宜更新を重ねて一通り把握できるようにシェアします。

目次

マーケティング戦略を理解する上で有名なドリルの話

マーケティングを端的に理解する上でよく取り上げられるドリルの穴の話を先ずはインプットしましょう。この事例はハーバードビジネススクール教授(Theodore Levitt氏)が著書で次の内容を紹介したことが起源になります。

“People don’t want to buy a quarter-inch drill. They want a quarter-inch hole!”

要するに人は1/4インチのドリルがほしいのではなく、1/4の穴が開けたいんだよという指摘です。

マーケティング戦略がないとモノが売れず組織は疲弊し資金も枯渇する

マーケティング戦略について説明する前に、ドリルの話をもう少し掘り下げて考えてみましょう。例えば、自社で電気ドリルを製造していると仮定します。自社の営業担当者が見込客を訪問し「電気ドリルいかがですか?」と 商談している姿を思い浮かべてみて下さい。

所謂「モノ売り」の状態であり、「ドリルは間にあってますから…」と商談で断られては、営業を繰り返し、という悪循環。売れないものを売ろうと努力して何回も断られる営業担当者はメンタル的にもきついでしょう。また、モノが売れないので経営におけるゴーイングコンサーンの前提が崩れます。組織はピリピリし険悪なムードに。そしてキャッシュも途切れ資金が枯渇する。

つまり、公的資金が投入されていない通常の民間ビジネスにおけるマーケティング戦略不在の組織は、余程のことがない限り、遅かれ早かれ追い込まれることが想像に難くありません。会社にとっても、そこで働く個人にとっても、また倒産リスク・債権焦げ付きリスクも考えると、取引先にとっても望ましいとはいえないでしょう。

顧客不在のデジカメ画素数競争を思い出そう

実際の身近な事例を取り上げてみましょう。かつてのデジカメブランドの熾烈な戦いです。一時、デジカメのメーカー各社は、画質がきれいであることを消費者にPRする高解像度大合戦がありましたね。下図の通り、黎明期からしばらくの間は、既存の一般流通品の画質は、総じて消費者の求める水準には届いていない状態でした。そのため、きれいな画質を求める消費者が多く、画素数が消費者の購買決定要因になります。しかし、メーカー各社がしのぎを削り、最大画素数を更新し続けると、いつのまにか消費者は「もはや、違いが分からない…無駄に価格が上がるならそれ以上いらないし…」となり、顧客不在の競争となります(プロ用途ではなく、あくまでマス向けの話です)。

マーケティング視点では、先ず自社商品という「モノ」は一旦忘れる

事例を通して大枠を理解したところでドリルに戻ります。それではドリルの例でマーケティング視点に立つとどうなるでしょうか。まず、自社商品は一旦傍に置いておき、そもそも「顧客は何を求めているのか?」に焦点をあてて考えるステップを踏みます。

そこで顧客のニーズを考えると、ドリルとはあくまで「手段」であり、顧客は「手段」であるドリルを使って、「穴を開けたい」という目的がある、この構図を押さえることが重要です。ちなみにですが、以下のような意見があった場合に皆さんはマーケティングの文脈からどのように説明しますでしょうか?

「穴をあけたい?ドリルは穴をあけることを目的として作っているんだから開発の段階でそんなの分かっている。穴をあけるというニーズががある。そんなの当たり前。普通にマーケティング思考じゃん」

時系列で鳥瞰的に捉えてみよう

上記意見については時系列で考えると分かり易いと思います。先ず、アナログで穴をあけるしか方法がなかった遥か昔において、人々が穴を楽に開けたい、そこで動力を活用した電動ドリルを開発した。この局面では完全なるマーケティング思考です。つまり上記意見はこの時点では正しいといえます。

今目の前の見込客のニーズを満たしているのか?がポイント

しかし、ビジネスである以上、電気ドリルが売れると分かると多くの企業が製造・販売を始めます。この局面で一般流通品と品質も価格もほぼ同じ電気ドリルを営業した場合、これはマーケティング思考と言えるでしょうか。市場拡大期の流れを見据えて便乗的に販売という意味ではマーケティング志向とも言えますが、顧客ニーズを解決する(商品開発寄りの視点)観点ではマーケティング志向は言い難いです。なぜなら、既に解決策として類似品が流通している状況で、解決策の代替案にもなっていない類似商品を提案している状態だからです。

つまり、そこに「今目の前の顧客(ターゲット顧客)がなぜそれが必要なのか?それを活用してどんなニーズを満たそうとするのか?」そこに対する答えが提案の中に含まれていないのです。当然ながらそこには顧客の視点不在、つまりモノ売り(プロダクトアウト)の視点になっていますね。

ちなみに通常の電気ドリルが普及した後、例えば女性のDIYニーズが一時ブームになりましたが、そのような局面に入ると、従来型の電気ドリルはとても重くて、女性が穴を開けるにはとても疲れるという悩みが出てきそうです。そう考えると、機能は削ぎ落として軽量版の電気ドリルを製造販売するという選択肢が浮上します。あるいは女性でも簡単に鉄等の堅いモノにも穴をあけたいといったニーズも過去のどこかの点であったことでしょう。それに対して、超合金スペックで対応するという選択肢も浮上するかもしれません。

Market + ing = Marketing

その意味では、Marketingは、Market + ing(現在進行形)なので、市場は常に動いているものと解釈すると分かり易いかもしれません。そう考えると、マーケティングとはニーズが変わるもの、あるいは顧客の要求品質や期待値が時間の流れに応じて高度化・多様化するものであり、マーケティングも発展させていく必要があると捉えておくとよいかもしれないですね。

仮説ベースで掘り下げて顧客の解像度を上げる

さて、次は目の前の顧客のニーズをどうやって特定するのかについて考えてみましょう。例として、電気ドリルが流通しているこの時代において、ある人が穴を開けたいという目的があると仮定します。その方は、夜な夜なネットで様々な電気ドリルを見ているにもかかわらず、連日なかなか購入に踏み切れないとしましょう。

この時点でこの人はおそらく「単に穴をあけるだけではダメなんだな…」と推察できます。そうすると、ではその人は一体何を求めているのか?どんな要件を満たせば夜ポチするのかを考えます。その際に仮説ベースで、どんな人なのか、具体的な用途は何か?仕事なのか?仕事ならどんな仕事だろう?プライベートでDIYなのか?これを発展させていくとペルソナ的なアプローチにもなります。所謂一人を振り向かせれば100人振り向くという考え方に立脚したマーケティングアプローチです。有名なところではスープストック東京さんのペルソナ「秋野つゆ」がありますね。

また穴をあけるシーンもイメージするとよいでしょう。手が疲れそうだな、怪我とか大丈夫かな等々、めちゃくちゃ狭いところでの作業なのかな、フルカラーにならなくてもよいので顧客イメージを最初は仮説ベースで具体化していきます。そこからフェーズではりなければネットで調査してもいいでしょうし、身近な関連する人にインタビューするのもありです。エスノグラフィーしてもよいでしょう。

ホワイトスペースを探り当てる

仮説を本格的に検証することで、仮説通りもあれば、仮説通りというよりも、やや枝分かれした発見だったり、予期せぬ発見がみえてくると思います。例えばドリルの場合であれば、

  • 今の流通品では、プロ用のものしか対応できず、予算面から非現実的
  • 1回使うだけで、今後予定はない反面、高価過ぎて気が進まない
  • やりたいことは、調べてみるとどうやらケガのリスクが高いため躊躇してしまう

等々、検証結果から現状の流通品のラインナップでは満たせていないニーズ、すなわち、ホワイトスペースが見えてくる、そういう何かしらの発見が仮説検証の過程で判明するかもしれません。

尚、仮説の精度は求めたいところですが、絶対的に仮説通りが良いわけではありません。当たり前ですが仮説の内容次第です。仮説通りということは、ともすれば仮説レベルで考える範囲のことなので同業他社も思いついていても不思議ではありません。その意味で良い仮説だと思える状態で、仮説が外れて更に良い発見があった、そこまでいくと真のホワイトスペースが見つかる可能性があるといえそうです。

いずれにしましても、仮説のまま終わると絵に描いた餅感が否めず、PDCAも回せないため、必ずデータで検証し、最終的には実際の購買データに基づいたペルソナや顧客ニーズに精緻化するようにしましょう。

ニーズの特定はマーケティングの入口

さて、単に「ニーズ」という言葉だけで終わらせるのではなく、ニーズをどこまで深堀でき、かつ競合も満たせることができていないホワイトスペースを特定できるかが大切です。単にモノを売りたいプロダクトアウトの思考ではなく、マーケットのニーズに立って物事を考えるアプローチこそがマーケティングと言えます。すなわちマーケットインですね。でもそれが簡単なら苦労しないですよねと自分でもよく思います。

終わりに

マーケティング戦略を実際に考えるのは骨の折れる作業です。その過程での辛さゆえに本当にマーケティング戦略なんて必要なの?と思ったときは、ビジネスである以上は、マーケティング戦略があるとないとでは結末に大きな違いがあるとしっかり理解し、目的ありきで考えましょう。

これまでの説明はドリルの例を用いてマーケティングについてその考え方を簡単に理解するために説明しましたが、マーケティング戦略の具体的な立案プロセスは先人の知恵により体系化されています。今後マーケティング戦略立案のオーソドックスな方法も今後またシェアしたいと思いますのでご興味ございましたらまた訪問いただければ幸いです。

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Writer

小木曽 尚史のアバター 小木曽 尚史 Hisashi Ogiso

株式会社Strategy & Design Labo (TIER) 創業者 & 代表取締役 | 早稲田大学卒。大手商社/米国駐在、MBA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、現職 | Global・HR・DXを軸に大手から中小企業、スタートアップ、民間から行政、国内から海外まで幅広く取引、延べ500社以上の企業支援、100人以上のキャリア支援 | 経産省/IFF MAGICセミナー登壇、海外省庁への戦略提言、海外スタートアップメンター、海外政府からの現地展示会招待実績等 | JETROパートナー | JICA専門家 | #起業家 #ヘッドハンター

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