マーケティング戦略立案にあたり最初にやるべきことは、初期仮説を持った上での市場調査です。この記事では、市場調査の方法とポイントをシェアしますので適宜ご参考頂ければ幸いです。
市場調査の全体像
まず最初に市場調査の全体像について。前提として、なぜ市場調査をするのかは事前に明確にしておきましょう。尚、人によってはマーケットリサーチと呼ぶこともありますが、本来、市場調査=Market Researchであり、翻訳すると同じです。よく市場調査とマーケットリサーチは厳密には異なるといった話がありますが、定義の仕方に違いあり、実務では手法ありきで進めるのではなく、目的志向で進めるようにしましょう。
いずれにしましても、大事な点は市場を理解せずしてマーケティング戦略を立案しても絵に描いた餅であり、希望的観測で終わってしまうことです。市場の機会や事業視点でのリスク・実現性等における仮説を検証するために市場調査を行うようにしましょう。
先ず、端的にマーケティング戦略立案の文脈における市場調査の目的は、市場機会の特定です。勿論、「機会」というのは単純にニーズがあるだけでは至らず、実現可能性のフィルターを通した上での機会といえます。そのため単に顧客だけを見ればよいのではなく、競合の動向や、自社のケイパビリティの視点も踏まえる必要があります。
その前提で市場調査の全体を像を示すと、上図の通りであり、市場機会の特定という目的に対してまずマクロ環境を分析し、その上で3C等の事業環境分析を行います。
市場調査項目
市場調査の全体像を押さえたら、次は市場調査の項目を把握しましょう。市場調査の項目は、仮説検証したい領域によって枝葉となる細分類項目は多岐に渡りますが、幹となる視点は基本共通です。
また、細かな項目にいきなりとびついてしまうと調査対象項目に抜け漏れが発生しがちであり、市場調査を良い意味で網羅的に捉えるために便利な方法がフレームワークの活用になります。ここではメジャーな環境分析のフレームワークを数点に絞り説明します。
マクロ環境分析
市場調査・分析では、マクロからミクロへと落とし込んでいくと、大枠を押さえた状態から徐々にフォーカスする形で調深堀りすることができるため、気づかぬうちに道を外しているリスクを回避し易くなります。そのため、まずはオーソドックスな市場調査を学ぶ意味でも、入口としてマクロからミクロへと調査することを推奨します。
PEST分析
以上の前提から先ず最初のマクロ環境分析としてPEST分析があります。PEST分析は4つの視点から分析する分析手法です。
Political Factor – 政治
政治的観点からマクロ環境を分析します。例えば米国でトランプが大統領だった頃は米国ファーストの自国保護主義要素が強く、米国の特定産業において不利に働く場合には、躊躇なくトランプが対象製品の輸入においてダンピング規制を掛けるというのはよくニュースになりましたね。
また、最近では香港での大規模なデモ、ミャンマーのクーデター等は、頻繁に起きないものの一度起こると経済にも大きな影響を与えるインパクトがあります。
また、規制緩和も大きな変化点になります。日本だと電力の自由化は大きな変化点になりました。既存事業者にとっては脅威ですし、新規参入者にとっては好機です。このように政治的側面から市場を分析することで、機会と脅威が見えてきます。
Economic Factor – 経済
政治の次は経済です。経済的側面から市場を分析します。分かり易い例は経済の規模や成長率、即ちGDPやGDP成長率、また物価や株価、賃金動向等が挙げられます。経済面における先進国と発展途上の国では購買可能な量もモノやサービスの相場価格も大きく異なります。また、リーマンショック等の金融経済不安といったイレギュラーな変動要因も経営に大きな影響を与えます。イレギュラーゆえに予測は困難ですが、最近ではおよそ10年周期で何かしらの経済混乱が起きており、段々とそのインターバルも短くなってきていると言われていますね。予測は難しくとも歴史から対策を用意しておく視点は事業の観点でも重要と言えそうです。
Social Factor – 社会
続いて社会的側面からの分析です。最もシンプルでインパクトの大きい項目は人口動態です。グローバルで見ると、最近はインドが中長期で捉えた場合に巨大市場として注目されていますが、これも人口動態が大きな要因の一つでもあります。
加えて、人々の生活基盤である社会インフラ、社会インフラとそこに住む人々により醸成される文化や教育制度、また単身世帯の増加など時代の変化とともに変わる生活環境等も挙げられます。日本は少子高齢化が進んでおりますが、海外では人口増加率よりも労働力増加率が高い人口ボーナスを迎える、あるいは真っただ中の国がまだまだあります。
Technology Factor – 技術革新
最後にテクノロジー視点です。技術革新の変化点によって業界構造がドラスティックに変化するようなケースです。インターネットの普及は分かり易いですね、少し前はブロックチェーンや5G、現在は生成AIが挙げられます。
実務視点では、個別プロダクト・サービスと紐付けて考えると分かり易いかもしれません。例えばネットの普及と相まって消費者レベルに大きなインパクトをもたらしたWindows95は、GUI等の良さもありますが、ネットワークの接続を容易にすることで、法人だけでなく一般の人々にもインターネットの門戸を開きました。その結果、「ネット x PC」を媒体とした巨大な経済圏が生まれました。
最近では生成AIにより、例えばホワイトカラーの業務オペレーションは、実務レベルで飛躍的に改善しました。その結果、これまでは英訳なら翻訳業者、デザインはデザイナーに外注していたものの、今は内製で対応、あるいはプログラミングのコーディングも、生成AIにより時短が進み、いずれも多少できる人レベルであれば、徐々に市場から淘汰されている印象です。そこでは悲観的な要素もありますが、大きな変化点のため新しいビジネスチャンスも生まれています。
事業環境分析
マクロ環境を捉えたら続いてズームインするイメージで、一段下のレイヤーである事業環境について分析します。
3C分析
事業環境分析で代表的なフレームワークは3Cがあります。Customer (顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つの視点で分析することで、外枠としては概ね漏れなく事業環境を分析可能です。順にそれぞれにポイントを解説します。
Customer – 顧客:
顧客分析の視点は目的によって視点は様々ですが、先ずは最低限押さえておきたいポイントが下図の通りです。
市場規模/成長率
先ず何事もマクロからミクロに落とし込むと分かり易いです。そのため、いきなり目の前の顧客に飛びつくのではなく、各顧客の集合体である市場を鳥瞰的に捉えましょう。PEST分析との棲み分けもありますが、今現在、どれ位の市場規模があるのか?また、今後市場はどのような成長を描いていくのか?を予測します。多くのケースで市場規模や成長予測はシンクタンクやコンサルファーム等が発表しているので、まずはそれら情報をデスクトップリサーチで調べてみましょう。
顧客属性・ニーズ・予算
続いてミクロに落とし込む形で「個」である顧客にフォーカスしていきます。おさらいの意味も含めて、自社の既存顧客はどのような属性でどのようなニーズがあるのか、新規事業についてもどのような顧客属性でありニーズがあるのかを分析します。また、B2Cでは平均単価、B2Bであれば予算感等の相場価格も把握しておきましょう。特に顧客ニーズはビジネスの起点であるため、顧客の理想と現実のギャップ、またそのギャップが生まれている原因でありペインポイントが何かを探る視点を持つことが重要です。
意思決定者
続いて意思決定者ですが、幼稚園児向けの商品を販売する際に、幼稚園児が欲しいと言っても購買の意思決定者は親ですね。また生産財のB2Bにおいても、現場が欲しいと言っても権限の割り振りや力関係によっては調達部が最終的に相見積もりを取り意思決定するケースも少なくありません。そのため、誰向けの商材であるか?誰が意思決定者か?は同じである場合もあれば、別である場合も少なくないことをしっかり認識しておきましょう。
購買決定プロセス
購買決定プロセスは主にB2B向けです。顧客の社内での稟議の回され方で誰がハンコを押すのかまで把握し、かつそれぞれに対してリーチできる商談力があると鬼に金棒です。基本的には金額が高額になるほど下から上の階層へとそれぞれの責任者がハンコを押すので、各々の視点に立った提案ができると理想です。そこまでは難しいにしても、顧客の社内でどのようなプロセスを経て購買の決定が下されるかは、商談の中でそれとなくヒアリングして頭にインプットしておきましょう。例えば購買決定プロセスがプラント系等の長期なものもあれば、品番・消耗品等の即決に近い商品もあります。時間軸でアプローチを変えていくことも必要であることも併せて認識しておきましょう。
購買決定要因
一言で表すと、何を判断軸としてモノやサービスを買うのか?を解き明かすことです。ニーズを満たすことができていても、購買決定要因を理解できていないと、自社の製品やサービスは購入してくれない残念な結果になりがちです。例えば、飲料メーカーが小売のチャネル開拓で営業に回った際に、ダイソーのバイヤーと成城石井のバイヤーでは全く購入時の判断軸が異なるのは明らかです。ニーズは分析しているものの、購買決定要因まで突き詰めて考えられていない企業さんは注意しましょう。
Competitor – 競合
続いて競合の視点です。競合分析は、「企業」を分析することに他ならないので、自社の分析と併せて同じ視点で横串で分析しましょう。そのため、次項目の自社分析のフレームワークを競合分析視点でも参照ください。
Company – 自社
前述の通り競合も自社も企業であるため、ここでは企業分析時における2つの視点をご紹介します。いずれも最終的には企業の強みと弱みの把握が目的であり、相対的に優位性があるのか否かまで洗い出す必要があります。比較なき分析はあまり意味がないので気を付けましょう。
経営資源視点 – ヒト・モノ・カネ・情報
まずベースは経営資源の観点です。経営資源の典型項目はヒト、モノ、カネ、情報です。粒度は粗いため慣れていないと各項目の中での小項目レベルでの視点の漏れが多発する可能性はありますが、大枠を捉える方法として有効と言えます。
ヒトに関して:
例えば、海外展開のケースで考えてみましょう。社長や従業員が現地にネットワークがある、あるいは留学生を採用した等は強みと言えます。反対に、英語が話せる人材がいない、誰も海外経験がないとなると。ヒトの観点では弱みとなるでしょう。通訳を雇えばよいという考えもありますが、やはり母国語で話せると商談や特にその後のオペレーションでスムーズですし、毎回通訳を雇うようではコスト高になってしまい採算も悪化するからです。
モノに関して:
自社の製品やサービスの優位性及び劣後している要素も含めて客観的に分析しましょう。商品やサービス単体そのものだけでなく、付随商品やサービス、パッケージ等、商品を構成する集合体として捉えて洗い出しましょう。
カネに関して:
これも海外展開のケースで考えてみましょう。海外営業をするにもコストはかかります。海外展示会(コマ代+装飾代)に出る、旅費交通費もかかる、現地調査を外部委託する場合もコストが当然にかかります。英文契約書を作成する、リーガルチェックを行う、信用調査をする、他にも色々とお金がかかりますよね。必要額を概算し、足元のCFや国内事業へ投下予定の出費も踏まえてバランスを算出し、必要時は資金調達しておく必要もあるでしょう。使える補助金や助成金もあるので、このタイミングで洗い出しておくとよいでしょう。
情報に関して:
同様に海外展開の場合、情報に関しては例えば、現地法人がある、代理店がいる、国内取引先が現地に支店がある等のケースでは現地の具体的な情報を吸い上げることが相対的に可能です。ビジネスにおいて情報力(いち早く、精度の高い情報を入手できる)は重要です。また行政の出先機関が現地にあることも自力での情報入手が難しい場合には一定の支えにはなるでしょう。取引銀行の現地サポート施設も最近は増えてきていますね。考えられる限りの情報ネットワークを洗い出しておきましょう。
バリューチェーン視点
経営資源の視点以外では、ポーターのバリューチェーン分析を用いて分析すると事業構造の把握においてより網羅性があるためお勧めです。バリューチェーン分析では主活動と支援活動に区分されています。よくあるR&Dから販売までのプロセスに加えて、それらを下支えする企業の基盤の視点も含まれている点に適度な粒度感の網羅性があります。ブレイクダウンされたこれらの項目を横串にして競合と自社を分析することで、競合や自社の優位性や弱点であり、ボトルネックも見えてきます。
5フォース分析
さて3Cの次は、事業環境分析においてお勧めの分析手法であるポーターの「5フォース理論」をご紹介します。推奨理由として、サプライヤーや顧客の視点が明示されていること、また直接的な競合だけでなく、代替品の視点も含まれているため、より精緻に分析できる点が挙げられます。
特に代替品の視点は重要です。この代替品についての視点が抜けがち企業さんは少なくない印象です。分かり易い極端な例を挙げてみましょう。
- 近くにラーメン屋がないので、ラーメン屋をオープンしたがうまくいかなった。
- なぜなら、近くにラーメン屋はないものの、おいしい定食屋やイタリアンレストラン、ハンバーガーショップ、コンビニがあったから。
- 代替品の視点で考えると、ひとつしかない胃袋の視点で考えた場合に、ラーメン以外にもおいしい代替品や手短いに食事を済ませる代替手段が溢れていたということ。
以上から3C分析でも網羅性があるのですが抽象度が高い分、慣れていないとその中での重要な視点が漏れてしまいがちです。5フォースの視点で分析するともう一段階落とし込んだ具体的かつ重要な視点が明示されているので是非試してみてください。
ここで5フォース理論をもう少し具体的に理解するために、5フォース理論の項目別にざっと補足説明します。
1. 顧客
実際の理論では買い手の交渉力といった言葉で表現されたりもしますが、あまり言葉に翻弄されずに、①どのような顧客がいて、②彼らの購買決定要因が何であり、③彼らとの商談における力関係はどれ位あるか、以上の3つを精査しましょう。
これらの情報をデスクトップリサーチで収集するには限界がありますので、出来るところまでデスクトップリサーチを行い、出来ない部分はエキスパートインタビューや実地調査をする等、より本格的な調査が必要になることを理解しておきましょう。
2. 競合との敵対関係
ここでの調査内容は主に、①どのような競合がいて、②どのような顧客ベネフィット・特長を有し、③どれくらいの価格で、④どのように販売・プロモーションしているのか等が挙げられます。
ここでも顧客調査同様に、デスクトップリサーチで収集できる量には限界があるため、ネットで探し続けても永遠に見つけ出せず、ひたすら時間だけ過ぎていくという悪循環に陥るリスクがあります。そうならないように仮説を持った上で、リサーチすることが重要です。また、一定の作業期間が過ぎたら、出てこないと見切りをつけ、実地調査に踏み切る等の明確な線引きを事前にしておくこともポイントです。
3. サプライヤ
実際の理論では売り手の交渉力等の言葉で表現されます。部材等を調達する必要がある場合に、①どのようなサプライヤがいて、②QCD観点でどれ位の水準であり、③商談においてどれ位の力関係があるのかを把握します。中国製品を輸入する際に、大量ロットでないと実質価格が合わないケースがありますが、それらも広義の意味で売り手の交渉力が強いといえます。また、有名ブランドを仕入れる際も、自社の販売力が限定的な場合は、断られるケースもあると思いますが、その場合も同様と言えます。
4. 新規参入の脅威
外部から新たに当該市場に参入される可能性がどれくらいあるのか?の視点です。身近な例では、飲食店や小売店、コンビニのフランチャイズであれば(採算の視点は別として)比較的参入障壁が低いため、新規参入の脅威が大きいと言えます。また、コンビニの数より多いといわれる美容院や、不動産仲介業も、資格さえあれば始められる事業ゆえに参入障壁が低く、実際に開廃業が多いことからも常に新規参入の脅威にさらされていると言えます。
参入障壁を築くという観点では、多大な投資が伴うようなスケールメリットが機能する事業(=得てして収益化までにコストがかかる事業)や技術習得までに一定の時間がかかる領域は参入障壁は相対的に高くなります。
5. 代替品の脅威
代替品の脅威については、自社製品の特徴ベースで考えるとなかなか見えてきませんが、ユーザー視点に立ち、彼らの課題解決視点で考えるとわかり易いです。つまり、彼らの課題を解決する自社製品カテゴリ以外の製品やサービスを指します。
例えば、清涼飲料メーカーがペットボトルの天然水を販売したいと仮定しましょう。彼らの競合は直接的には他のメーカーが販売しているペットボトルの天然水です。しかし、ユーザーは天然水が飲みたいだけであり、供給サイドの固定観念を振りほどけば、そもそも天然水を飲むために必ずしもペットボトルで買う必要がなく、むしろ手軽にいつでも自宅で飲むことができ、更に重い水を持って帰る必要のないウォーターサーバーの方が良いかもしれません。そう考えると先述の清涼飲料メーカーの代替品の脅威の視点では、同カテゴリの競合であるボトリングされたその他ミネラルウォーター販売業者ではなく、ウォーターサーバー会社がそのひとつとなります。その結果、ウォーターサーバー販売業者も広義の競合と捉えて対策を講じる必要が出てくる、このように今後の戦略立案に反映されていきます。
戦略方向性の可視化
上記アプローチ等をベースに可能な限り細かな視点で分析できましたら、次は市場調査結果を基に、そもそもの目的である市場機会の特定を念頭に自社の戦略の方向性を固めます。詳細ではなく、あくまで方向性という点もポイントです。
そのための手法の一つとしてSWOT分析 & Cross-SWOT分析があります。よくSWOT分析だけ紹介されているケースがありますが、SWOT分析だけでは、あくまで調査結果をグルーピングするだけなので頭の整理で終わってしまいます。
その後に4つの視点をクロスさせることで方向性を見出すCross-SWOTまで必ず行うようしましょう。それでは順番に説明します。
SWOT分析とは?
SWOT分析では、外部環境と内部環境の視点で調査結果を整理します。外部環境は、機会と脅威の2視点、内部環境は自社の強みと弱みの2視点、計4つの視点で現状を認識します。
これまでにしっかりと調査していれば後は枠に入れていくだけなので問題ないでしょう。逆に前工程で調査したのに全然埋まらなかったり、視点が漏れていた場合には、当該視点をもって再調査しましょう。SWOT分析もフレームワークなので抜け漏れのサポートしてくれますからその意味でも有効といえます。
SWOT分析の進め方・ポイント
先ずこれまで分析してきたマクロ環境、事業環境、内部環境を、SWOTの切り口である機会、脅威、強み、弱みにカテゴライズして整理をします。機会及び脅威が外部の視点であり、強み及び弱みが内部の視点になります。戦略の方向性を確定させるための仮説検証としてSWOTを活用していると考えましょう。
実際に作業していく中で、同じ内容でも、強みであり弱みでもあると考えられる内容や、機会であり脅威ともいえる事象が出てくると思います。極端な例を挙げると、リソースが相対的に少ないことは弱みであるが、相対的に過去に縛られずにアジャイルに動けるという意味では強みともいえます。
また、海外のある特定業界の企業が黒船のごとく国内に押し寄せているトレンドがある場合に、脅威ともいえますが、相互補完的に戦略提携を結び国内売上増加や逆に海外販路開拓のきっかけになり得る機会ともいえます。
つまり、何をゴールとするかによって捉え方が変わってくる話であり、SWOTに当てはめて整理している間は、これまでの現地調査・分析の中でなんとなく見えてきた(=現状考えられる仮説としてベストな)戦略の方向性をイメージした上で整理することがポイントです。そうすることで次のステップであるCross-SWOTで戦略の方向性の仮説検証が効率的にできます。
逆に、この時点で仮説がなければ整合性のない情報がカテゴライズされずに「箱には入っているけど整理されていない状態」になってしまいます。従い、ここでは、これまでの調査結果を基にイメージした頭の中の一本のベストなシナリオを仮置きして、それに合わせて振り分けていきましょう。
Cross-SWOT分析とは?
各SWOTが埋めることができましたら、いよいよ戦略の方向性を固めます。もし何の準備もなしに戦略の方向性を固めろと言われたら大小さまざまな視点がある中でどのような視点でを基に検討すればよいかわからない人も少なくないでしょう。
Cross-SWOT分析では、SWOT分析で整理した市場の機会、脅威、自社の強み、弱みの4つの視点から戦略の方向性を見定めます。特に重要な視点である「市場の機会x自社の強み」の掛け合わせにおいて、どのような方向性が商機であり勝機といえるか?という視点で戦略の方向性を固めましょう。
Cross-SWOTの進め方・ポイント
Cross-SWOTの目的は、強みや弱み、機会や脅威を組み合わせて、戦略の方向性含めた対策を導き出すことです。それでは組み合わせ方と意図する内容を確認していきましょう。
機会 × 強み
「機会に対して、強みを活かして、どう機会を最大限に享受するか?」の視点で検討します。市場も追い風、かつ強みが最大限に発揮できる戦略シナリオがあればもちろんベストです。
脅威 × 強み
「脅威に対して、強みを活かして、どうチャンスに変えるか?」の視点で戦略の方向性を模索します。脅威と強みの組み合わせでこんな方向性が考えられないか?といった方向性を模索していきます。
機会 × 弱み
機会に対して、弱みに起因する機会ロスをどうヘッジするか?」の視点で戦略の方向性を模索します。同様に、その他の考えられるシナリオを、特にヘッジするという視点でリスクを潰す案を模索します。
脅威 × 弱み
「脅威に対して、弱みとの負のスパイラルをどうヘッジするか?」の視点で戦略の方向性を模索します。同様にヘッジの観点から「これはやっておかないとまずいのではないか」等、潜在リスクと打ち手の方向性も洗い出しておくと良いです。
以上により戦略の方向性が固まりましたら、当該方向性を具体化していくためにターゲットセグメントを定めて、自社のポジショニングを明確にするためのSTP分析等を経て、更に詳細となるマーケティング戦略(マーケティングミックス)を立案していくプロセスになります。
セグメンテーションやターゲティング、ポジショニング等のSTP分析についてはこちらの記事に纏めてありますので適宜ご参照ください。
尚、マーケティング戦略の定番フレームワークである4Pについてはこちらの記事に纏めてあるので適宜ご参照ください。
市場調査のポイント
最後に、最低限押さえておきたい市場調査のポイントをご紹介します。
1次データの視点を忘れずに
市場調査で得られるデータは大きく3つに分かれます。
先ず一番重要なデータとして1次データがあります。1次データとは、自社が特定の目的のために独自にリサーチした情報群であり、市場調査における付加価値の源泉と言えます。
次に、2次データは他社・別組織がリサーチした情報群を指し、官公庁の統計データ等が挙げられます。また、自社の視点では、既に別目的で収集されているデータも該当します。
最後に3次データですが、複数の情報ソースによる情報群です。
以上を踏まえた調査のポイントとして、先ず最初に2次や3次データで大枠を理解し、よりコアな部分を掘り下げるために当該目的に特化した自社独自の調査=1次データを取りに行くことです。
世の中に公開されているデータは有料版も含めてお金さえあれば誰でもアクセス可能であり、それらの情報から立てられる戦略も概ねに似たり寄ったりになる可能性がある点は認識しておきましょう。
定量データと定性データ両方の視点を忘れずに
市場調査には大きく定性調査と定量調査があります。定量調査は数値化可能であり、また数値化を前提とした調査を指します。例えば、商圏人口、顧客満足度、CVR等が挙げられます。調査方法の例としては、インターネットリサーチを活用したモニター・パネル調査、アナリティクスツールによるアクセス解析、POSデータ分析等が分かり易いと思います。
一方の定性調査は、数字で表現できない視点及び項目を対象とした調査です。項目例としては、ユーザーの声や行動、規制動向、顧客や競合の戦略等が挙げられます。調査方法の例としては、エキスパートインタビューを活用したユーザーニーズのヒアリング、エスノグラフィー等による行動観察が挙げられます。
市場調査で定量化の視点を忘れた調査は意思決定において判断が難しく、また決して少なくない企業において定量化の視点が抜けがちであるため、客観的な意思決定ができるように定量化の必要性を改めて認識することが大事です。反対に少し慣れてくると定量化ありきでかなり偏るケースもあるため、その場合は定性的な調査も深堀して数字では得られない示唆が得られるように調査しましょう。
変化点を意識する
ピータードラッカーも書籍「イノベーションと企業家精神」で述べていますが、特に「変化点」を意識して、変化に関わる情報を逃さないように気を付けましょう。変化が起きるときに地殻変動が起き、新規参入のチャンスや業界ディスラプトが起こりやすいため強く意識しましょう。
鳥の目、虫の目、魚の目、蝙蝠の目
次に変化点の特定も含めて市場調査時のポイントとして「鳥の目、虫の目、魚の目」の3つの視点+蝙蝠の目がお勧めです。
ざっくり、マクロ視点で鳥瞰的に全体像を捉えましょう(鳥の目)、マクロからミクロへ落とし込むイメージで細部までしっかりと確認しましょう(虫の目)、また時間軸やトレンド等、流れで捉えてみましょう(魚の目)、逆の発想の視点も踏まえて評価してみましょう(蝙蝠の目)というイメージです。市場調査においては、少なくともこれらの大項目レベルの視点での調査を意識しましょう。
仮説検証の考え方
仮説なしで調査するケースが少なくありません。特にチームで調査する時、軸となる共有された初期仮説がないとそれぞれが個々の思うままに調査を進めてしまい、目的不在の単なるファクトブックが出来上がってしまいます。また、初期仮説がないと永遠と情報収集することになりがちです。
仮説があると当該仮説をベースに調査していくことで効率的に市場調査が可能です。また検証するための調査の過程で新しい発見となる情報が必然と入ってくるため、網羅性について過剰に反応する必要はありませんので先ずは試しに仮説を立てて市場調査してみてください。
むしろ「網羅性」は扱い方を間違える無限に調査をすることになるため(横幅及び深度の観点からすべてを網羅するのは実質的に不可能)、「今、何調べてるんだっけ!?」と路頭に迷うことになりかねません。まずは初期仮説を立ててみましょう。仮説が外れても、それ以上に有効な新しい発見とそれに基づいた戦略の方向性がみえてくるものです。
市場調査の位置づけを念頭に
さて、市場調査のポイントをざっと説明してきましたがいかがでしたでしょうか?最後に重要なポイントとして、市場調査をしてそれで満足しない終わらないように気を付けましょう。
市場調査の目的は達成できたか?を必ず確認しましょう。つまり、市場の機会は特定できたか?そして戦略の方向性は固まったか?、そのままぶれずに後工程であるSTP分析やマーケティングミックス立案に繋げられそうか?これらの視点で検討しましょう。
また、STPやマーケティングミックス検討時も、市場調査は並行して適宜必要になります。ウォーターフォール的に最初に定めたらあとは流れに沿ってやるだけ、ではありません。それぞれの段階で深堀する部分が異なります。突き詰める程、見えてない、検証しておきたいポイントが浮上してくるため、戦略立案を検討しながら、適宜深堀調査を並行するイメージです。市場調査は戦略立案が完了するまで適宜行われることを頭に入れておきましょう。