直接輸出を前提とした海外販路チャネル設計の落とし穴とは?
海外市場への展開を進めるにあたり、販売チャネルの構築は非常に重要なステップです。しかし、その設計において、リスクの洗い出しや適切な判断ができている企業はどれほどあるでしょうか。
一般的に海外への販路設計には、大きく分けて「間接輸出(国内商社を通じた販売)」と「直接輸出」の2つのアプローチがあります。さらに近年では、訪日観光客によるインバウンド需要を活用した「国内輸出」も広がりを見せており、これも販路の一形態と捉えられるようになりました。
今回はそのうち、「直接輸出」に焦点を絞り、中小・中堅メーカーが海外市場で販路を開拓する際に、押さえておくべきチャネル設計の注意点について解説します。間接輸出や国内輸出といったモデルは今回の対象から除外します。
あいまいなチャネル用語が招くリスクとは?
海外販売戦略において頻繁に登場する用語に、「現地ディストリビューターを活用する」「現地の販売店を介す」「現地商社に任せる」「代理店経由での展開」「セールスレップを活用する」といった表現があります。一見すると似たような意味合いに見えるこれらの言葉ですが、実際にはそれぞれ異なる役割や責任範囲があります。
問題なのは、こうした用語が曖昧なまま使われることで、現地パートナーとの契約や業務フローの認識にズレが生じ、思わぬトラブルや損失につながるケースが少なくないという点です。
だからこそ、チャネル設計を行う際には、まず各用語の定義やビジネス上の位置づけを明確にし、現地との連携体制や役割分担をしっかりと把握することが重要です。
契約形態で整理する海外販路チャネルの基本構造
現地パートナーとの連携を図りながら海外で販路を拡大していく際、しばしば耳にするのが「ディストリビューター」「販売店」「商社」「代理店」「セールスレップ」といった用語です。これらの言葉は非常に多義的で、意味の捉え方によっては混乱を招くことも少なくありません。しかし、これらを契約形態の違いから整理すれば、ぐっと理解しやすくなります。
ディストリビューター契約とエージェンシー契約の違い
海外市場における販路設計では、現地企業との契約形態として主に次の2つが挙げられます。
- ディストリビューター契約(Distributorship Agreement)
- エージェンシー契約(Agency Agreement)
この2つの大きな違いは、「誰が最終的に商品を購入するのか?」という点です。
ディストリビューター契約では、自社は現地パートナー企業に対して製品を販売し、その後の販売活動はその企業が担います。つまり、製品は一旦その企業が仕入れる形となり、エンドユーザーへの販売価格などは基本的に現地企業が決定します(ただし、価格指導を行うこともあります)。
エージェンシー契約では、現地企業は販売の“仲介”を行うだけで、最終的な販売先はエンドユーザーとなり、自社が直接販売を行います。したがって、価格設定を含む商流の主導権は自社が握る形となります。
リスクの所在は契約形態によって異なる
契約形態の違いは、販売リスクの所在にも直結します。
ディストリビューター契約では、現地企業が製品を仕入れて在庫を持つため、現地市場での販売リスクは基本的にその企業が負います。
一方、エージェンシー契約では、販売責任やリスクの多くを自社が負うことになります。市場での売上が伸び悩んだ場合の影響はダイレクトに返ってきます。
呼称ではなく、契約形態で正確に判断を
実務では「現地ディストリビューター」や「販売店」「商社」「代理店」「セールスレップ」といった呼び方が混在していますが、これらの呼称だけでは契約内容を正確に把握することはできません。例えば「セールスレップ」は個人であることも多く、法人として活動する場合もあり、その実態は非常に幅広いものです。
そのため、呼称に頼らず、具体的な契約形態をもとに判断・交渉を進めることが非常に重要です。どうしても分類が必要な場合は、「ディストリビューター」と「エージェント(代理店)」という2軸で区分する方が、認識のズレが生じにくくなります。

エージェンシー契約には注意が必要
ご紹介したように、海外展開における販路構築の契約形態には「ディストリビューター契約」と「エージェンシー契約」がありますが、特に注意が必要なのが後者のエージェンシー契約(代理店契約)です。
日本ではあまり馴染みのない契約形態かもしれませんが、世界各国には代理店を法的に保護する制度が存在する地域も多く、安易に契約を結ぶと、想定以上の責任やコストを背負い込む可能性があります。
「現地で顧客を獲得するので、代理店契約を締結しませんか?」という申し出を受けたときこそ、慎重な対応が求められます。以下に、特に注意が必要な国・地域と、代理店契約に関する代表的なルールをご紹介します。
欧州連合(EU圏)
EUでは、個人の代理商(エージェント)との契約を終了する場合、以下のような保護規定があります。
- 利益機会の喪失に対する補償請求が可能
- これまでの販売活動にかかった投資額の補填請求も発生し得る
- 通告期間が法的に定められており、期間の定めのない契約では
- 1年目:1ヶ月
- 2年目:2ヶ月
- 3年目以降:3ヶ月の予告期間が必要
中東地域(GCC諸国など)
中東では、多くの国が独自の代理店保護法を設けており、販売代理店もその対象に含まれることがあります。
- 輸出企業側が一方的に契約を終了することは「権利の乱用」とみなされる可能性あり
- 正当な理由がない契約更新拒否に対しては、補償を請求されるリスクも
中南米(特に中米)
中南米地域では、南米よりも中米地域に代理店保護法が多く存在します。契約の終了には以下が求められる国もあり、手続きが煩雑化するケースがあります。
- 双方合意
- 正当な理由
- 事前通知
中国
中国では、代理店契約に関する明確な保護法は存在しないものの、以下のような規定が設けられています。
- 契約に基づいた利益保護の考え方が根拠となり、トラブルが法的に争われるケースも
- 裁判や仲裁に発展した場合、契約書の記載内容が重視される
インドネシア
- 販売代理店として活動するには商業省への登録が必要
- 契約終了時には、登録抹消手続きを行う義務がある
まとめ-エージェンシー契約は言葉の定義の認識合わせを確実に。
海外でのビジネスパートナー選定において、「エージェンシー契約=リスクが高い」と一概には言えません。しかし、多くの国で代理店の立場が法的に保護されているのは事実です。特に、個人事業主(エージェント)を保護する法律が存在するのは、力関係の弱い立場を守るという趣旨からきています。こうした背景も踏まえた上で、進出先の法制度を事前に調査し、契約内容の精査を怠らないことが、後のトラブルを未然に防ぐカギとなります。
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