この記事ではSTP分析について簡単にポイントを理解できるようにスライド付きで解説します。尚、STP分析の前工程である市場調査及び戦略の方向性の設定について知りたい方はこちらの記事、また後工程のマーケティングミックスの設計方法を知りたい方についてはこちらの記事に纏めてありますので適宜ご参照ください。
STP分析とは?
先ず初めにSTP分析の全体像を理解しましょう。まずSTPとはSegmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の3つの頭文字を指します。
STP分析の目的は、勝てる市場を探すことであり、換言すれば「一定の確かなニーズが現在も今後も期待でき、かつ自社の強みが発揮できる儲かる市場を探す」ことです。そのための方法として、市場を細分化し、ターゲットセグメントを定めて、自社のポジショニングを決めること、これがSTP分析で行うことです。これらを市場調査の結果を踏まえて体系的に戦略に落とし込んでいく必要があります。
後工程の具体的なマーケティングミックスを検討する上で、この部分はベースとなる基本戦略のコアになります。しっかりと固めていきましょう。
それでは順番にそれぞれの内容を確認していきましょう。
Segmentationとは?
セグメンテーションとは、任意の軸で市場を切り、同質なニーズを持つ顧客にグルーピングすることです。縦軸と横軸等、任意の軸で市場を切るため、軸の設定が極めて重要になります。
市場・顧客を細分化(=セグメンテーション)し、次の作業である「狙うべき市場・顧客の選定(Targeting)」へと繋げる役割を担います。可能な限り漏れやダブりがないようにしましょう。
さて、セグメンテーションにおいて問題となるのが、「市場・顧客をどのような切り口で細分化していくか?」になります。ここでの注意点として、仮にきれいにセグメンテーションできたとしても、例えば単に性別と年齢だけで切ったセグメンテーションでは、それが果たして有効なのかは疑問が残ります。後段の戦略具体化に繋がることを考えると意味のある切り方なのかは検討の余地があると言えます。
セグメントの軸
以上を踏まえた上で、軸の設定項目として主な変数を紹介します。一般的にセグメンテーションの切り方として5つの定番の変数があります。
Demographic factors(人口統計変数)
人口統計変数は、性別や年齢、職業、収入、家族構成等が挙げられます。イメージし易く、最も分かり易い変数といえます。皆さんは「F1層」という言葉をご存知でしょうか?出自はTV等の放送業界や広告業界ですが、FはFemaleのF、つまり女性です。尚、Mがついた場合はMaleのM、つまり男性を指します。
次に「1」が何を指すか?これは、20から34歳までの層を指すため、F1層とは、20~34歳の女性を指します。尚、「2」は35から49歳、「3」は50歳以上を指します。つまり、性別と年齢の2軸によるセグメンテーションになります。
人口統計変数はよく使用されますが、人口統計変数だけではセグメントの粒度が粗く、他社も似たような切り方になりがちです。その場合、セグメンテーションとしては、可もなく不可もなくという切り方であることは認識しておきましょう。後工程で競争優位性のある戦略や施策の立案がなかなか出来ないという結果になりがちと言えます。
Geographical factors(地理的変数)
国や地域、気候、宗教、文化等があります。北米、中南米、アジア、ヨーロッパ、アフリカ等、地域で分けたり、キリスト、イスラム、ヒンドゥー、仏教等の宗教で分けたり、あるいは特定の農産物の業界を想定して気候で分けたり等が挙げられます。
Psychographic factors(心理的変数)
価値観、興味、嗜好、ライフスタイル等が挙げられます。B2Cにおいては特に重要視される変数です。
例えばセグメントを同じ日本、更に東京、更に港区と絞り込んだとしましょう。それでも外向型の人もいれば、内向型の人もいますし、インドア派の人もいれば、アウトドア派の人もいます。買い物においてもエシカル優先の人もいれば、価格優先の人、ブランド優先の人等々実に多様です。
用い尽くされた表現ですが、現代社会、特に成熟した先進国ではモノで溢れています。供給側も細分化に細分化を重ねており、消費者が利用可能な商品やサービスは実に多様です。そのような選択肢が多い中で必然と消費者側も興味や趣味、価値観も相乗効果で多様化し続けています。人口統計変数や地理的変数だけでは限界がある点も心理的変数をみるとその異なるベクトルや広がりに頷けると思います。
Behavioral factors(行動変数)
購買チャネル、頻度、場所、用途・活用方法等、買い手の行動様態の視点です。例えば楽天カードを持っており、ポイントがたまるからECでの買い物は基本楽天市場しか使わない、あるいはスピード最優先でAmazonしか使わないという人もいます。
また、安いものを消耗品として何回も購入しては捨てるを繰り返すタイプもいれば、高いものを長く大事に使うタイプもいますよね。このように買い手の行動を軸で切り、セグメンテーションする方法です。
尚、ポイントとして、同一人物でも、ある商品は長く大事に使用するが、別の商品は消耗品費扱いというパターンも当然ありますし、またその人の人生のフェーズにおいても行動が大きく変わることもある点は注意しましょう。
Firmographic factors(企業特性変数)*B2B
最後にB2Bの視点から、業界、所在地、売上、従業員数等の企業特性変数を紹介します。よくあるケースとしては業界×規模で切り、規模は売上や従業員数等で定量的に評価するパターンです。尚、売上は上場企業等でないと公開されないケースも多いため、従業員数の方が評価できる数は相対的に多くなります。企業のロングリスト作成の視点と似ていますよね。
BtoCとBtoBではセグメンテーションの軸が異なる:
尚、B2CとB2Bでは軸となる視点が異なる点に注意しましょう。上記変数は最後の変数を除いて主にBtoCを想定されたものです。そのため、生産財等のBtoB向け製品に関しては注意が必要です。また、自社生産財の納入先企業が生産する最終製品のエンドユーザーの動向から厳密に遡って市場を捉える場合もあります。
ちなみに、経営資源が限られている場合、既に自社の生産財のニーズがあると分かっていれば、その販売先の企業の更に先にいる最終消費者のセグメンテーションまで行うことの優先順位は劣後します。時間の使い方や工数面からあまりお勧めしません。成長率や長期的トレンドも含めて需要予測するのは大切ですが、直接的な顧客がいると分かっているのであれば、その顧客群のセグメンテーションの設定(切り方)に時間を傾斜配分した方が効率的と言えます。
またもうひとつポイントとして、BtoCと比べて BtoBの絶対的な特徴である「経済合理性」の観点は軸として設定するよりも、原則どのセグメントにおいても所与の扱いにすると、セグメンテーションで変に悩む必要性が減るため有効です。
Targetingとは?
セグメントが一通り洗い出せたら、次はその中から自社がターゲットとするセグメントを決めるプロセスに入ります。洗い出したすべてのセグメントにアプローチするのはヒト・カネ・時間の無駄の極みといえます。そのためにも、洗い出したセグメントの中から現状ベストと考えられるセグメントを決める必要があります。
セグメントを選択する際は、自社の視点がより重要になります。選択したセグメントが自社にとって魅力的でも自社の強みやリソース面から現実的でなければ絵に描いた餅で終わってしまいます。これまでの市場調査で整理、抽出した内容を基に、セグメント及び自社両面からみて最も妥当とだと思われるセグメントを選択しましょう。
ターゲティングすべきセグメントの絞り込みは、後述する4R/5R/6Rの視点で評価すると大きく外すことはありません。尚、重要な点として、競合の視点以上に、先ずは「一定の確かなニーズが現在も今後も期待できる」かつ「自社の強みが発揮できる」の2つを満たすセグメント選びがポイントとなります。
以下、セグメンテーションにも通じますが、ターゲティングする際の評価軸として有効なフレームワークがあるので解説します。
セグメンテーション&ターゲティングの評価軸
市場を細分化し、ターゲットセグメントを選択する一通りのプロセスにおいて、それが果たして本当に適切なセグメンテーションであり、また適切なターゲティングであるかの評価は、リスクヘッジとして実行フェーズに入る前に可能な限り実施しておきましょう。その評価方法の一つの考え方として4R/5R/6Rのフレームワークがあります。いずれも多くは重複しており、4Rをデフォルトにに5Rが4R+1、6Rが5R+1という構図です。ここでは一番項目が多く、相対的に網羅されている6Rで簡単に説明します。
Realistic Scale – 事業を行うにあたり、現実的かつ十分な規模か?
一つ目はサイズ感についてです。細分化すればするほど各セグメントは小さくなります。セグメントが大きすぎると経営資源が豊富にある大手を中心に競争が激しくなるため、よほどの勝機がない限り、細分化を続けた方が妥当と言えます。
一方で、ニッチ戦略を誤った形で推進すると、例えば細分化し過ぎた結果、マーケットサイズが小さくなり過ぎてしまい、どれだけCVRが高くても「やれどやれど損益分岐点全然超えないんですけど…」という絶望に見舞われてしまいます。大き過ぎず、小さ過ぎずを意識しましょう。
尚、事業のスケールは戦略よりも戦う市場の選定で決まるとする考え方もあります。スケールするしないという点については海外ではタイミングが重要だとする定量的な分析結果もあり、複合的な要因ですが選択したマーケットのサイズによるという考えは個人的にはとても納得です。
Rate of Growth: 市場規模は成長しているか?
逆張り的な発想で戦略的に斜陽産業を狙うという方法もありますが、ゴーイングコンサーンの企業のプリンシパルに則れば、リソースを投下するなら今後成長が見込める市場を選ぶのが通常と言えます。
成長市場は誰しもが注目しているのでレッドオーシャンではないかと考えてしまうかもしれませんが、市場が成長している間は市場のパイは広がり続けている状態であることがポイントです。
成長が見込めない市場や斜陽産業では、市場規模はそのまま、もしくは縮小するため、単純に顧客の数に限りがあり、更に目減りしていく状態です。つまり、限られたパイを他社と奪い合う状況であるため、それよりも市場の成長性が見込めれば市場が拡大している時期なので、競合が多いとしても相対的には事業が存続しやすいといえます。
Rival: どのような競合がいるか?競合度合いはどうか?
続いて競合の視点です。これは分かり易いですね。競合が多ければ多い程、その分リソースが必要になりますし、不確実性が上がり、成功確度も下がります。
しかし、どの市場にもポーターの5フォース理論でいう「代替品の脅威」の視点を含めれば競合は必ずいますのでポイントは二つです。一つ目にどのようなタイプの競合がいるのか、競合と一括りにせずきちんと洗い出しましょう。極端な例では、予算もヒトも潤沢にある大手が多いのか、経営資源に限りのある中小企業が多いのかでも、自社のアプローチも大きく変わってきます。
二つ目に競合度合いです。あまりにも競合が多く密集していれば、レッドオーシャンとも言えますので、明確な根拠がない限り、あえてそこに限られた経営資源を投下する必要はないといえます。
Reach: 自社が顧客にリーチできるセグメントか?
どれだけ市場の規模が適正でマーケットも伸びており、競合度合いも好条件だったとしても、自社がそもそもその顧客にリーチできるセグメントでなければ机上の空論であり、願望に過ぎません。
例えば、外部の人間が軍事産業における特定の軍事用品を世界中の政府の国防機関に調達してもらおうと思っても、それができる企業は限られているのと同じです。「セグメントは魅力的だけど、そこにリーチできるの?」とそもそも論で問いかけてみましょう。
Response: 顧客からのレスポンスを測定可能か?
施策を行った際に、顧客からの何かしらの反応を測定できるかどうか?という視点です。競争優位性のある企業は顧客との距離がとても近く、顧客のフィードバック(定量・定性ともに)を収集できる仕組みがあります。逆に施策を打ってもレスポンスが得られないと、その施策が正しかったのか否か判断できずPDCAが回せません。
売上や問い合わせがあれば、反応があったと結果ベースで認識することは可能ですが、それ以前に関心はあるけれどまだ動かないという見込客については知る由もありません。そしてビジネスにおいてはその部分をいかに把握して前広にアプローチし、取り込むかが重要です。
例えばですが、メーカーが卸、小売経由だとエンドのお客さんが何を求めているのか把握が困難であり、フィードバックが定性的にも定量的にも「売れる or 売れない」の結果ベースでしか得られません。その意味では、直販を行うという動きは、中間マージンカットによる価格競争力や収益性強化という目的だけでなく、このレスポンスの視点を目的とした場合も多々あります。
Rank: 市場環境の観点から優先順位は妥当か?
Rankについては、以上の視点を踏まえて最終的に優先順位をつけてターゲティングを最終化すると考えれば分かり易いかもしれません。優先順位をつける際に、顧客だけではなく、競合、自社の視点から総合評価をし、優先順位をつけてターゲティングしましょう。
Positioningとは?
ターゲットセグメントを設定したら、最後にポジショニングを行います。ターゲットセグメントにおいて、顧客と競合がいる中で自社をどのように位置づけるのかを検討します。よくある方法として、任意の縦軸、横軸で象限をつくり、そこに競合と自社をプロットして自社の強みが生きるホワイトスペースがないかを試行錯誤しながら洗い出していきます。
ポイントは、顧客の購買決定要因も洗い出し、自社及び競合の付加価値がどの購買決定要因を満たしているのかを紐付ける作業を行うことです。そうすることで、他社と比べた相対的な自社の強みが可視化できポジショニング設定の精度が上がります。
主な差別化のパターン
ポジショニングの方法として分かり易い考え方は「差別化」の視点です。但し、顧客ニーズ不在の差別化にならないように注意しましょう。それでは差別化のいくつかのパターンをここでは解説します。
商品差別化
ユーザーのベネフィットに繋がる機能性やUX等の視点で商品やサービスそのものについて差別化を図ります。炭酸水市場において強炭酸水やバリエーション豊かなフレバー、あるいは従来のユーザビリティの悪い会計ソフトに対してマネーフォワード等のユーザビリティの良い会計ソフト等、商品差別化は実に様々です。
価格差別化
価格面から差別化を図ります。ビッグデータ等を用いて価格を高頻度で相手に応じて変動させることも可能なダイナミックプライシングやウォルマート等のEveryday Low Priceは有名な事例ですね。サービスを最低限に絞りコストを下げるようなLCCも価格差別化の視点にもあてはまります。
サービス差別化
サービス差別化の有名な事例は、アメリカの靴のEC販売事業を展開するザッポスが挙げられます。顧客対応中に販売と関係ないことまで色々とお世話するというエピソードは有名ですね。他にもAmzon Primeの翌日配送や送料無料、あるいは1年間保証や返品無料等の販売後のアフターの対応についてもサービス差別化は実に多様です。
イメージ差別化
端的にブランド戦略です。市場の流通品と同等スペックのものでも、買い手が付加価値を感じることで買い手にとっての第一想起になったり、あるいは第一想起にならなくても選ばれやすくなります。
カフェと言えばスタバ、高級ランジェリーブランドといえばエルメス、スマホと言えばiphone、ハンバーガーといえばマック、牛丼と言えば吉野家、フリマと言えばメルカリ等、ヒトによって色々第一想起がありますよね。
そこに至るためには、顧客接点すべてにおいて一貫したコンセプトであり世界観の表現の徹底等、かなりのコミットメントが必要となる点は念頭に置きましょう。
チャネル差別化
「ここだけでしか買えない」等のチャネルを限定することでの希少性醸成や逆にどこでも購入できるというフルカバレッジのチャネル網等、チャネルで差別化する考え方です。
また、チャネルを特定のコンセプトに合致した流通網にしか流さないことで(例えばオーガニックスーパーにしか卸さない等)、ブランディングにも寄与します。フルカバレッジは大手の資本力がないと困難ですが、チャネルの限定は施策としては比較的行い易いといえます。
自社のマーケティング力や営業力、人的資源等の兼ね合い、及びブランド戦略等の観点からチャネルでの差別化も有効な打ち手といえます。
STP分析は事業戦略の基本
さて、いかがでしたでしょうか。セグメンテーションからターゲティング、そしてポジショニングと一連の流れをみてきました。セグメンテーションの切り方においても、ターゲティングの評価においても、ポジショニングの軸の設定においてもどれも一回で神が降臨したかのごとく決まるものではありません。
色々と組み合わせを試してはホワイトスペースが見えてこないかを試行錯誤するプロセスを経て、ようやく他社ではなかなか思いつかない、かつ自分たちにとってのベストな勝ちパターンが見えてきます。
市場分析とマーケティングミックスの具体化の間の連結ピンともいえるSTP分析は事業戦略のベースになる重要なファクターです。是非、仮説検証を繰り返して「自社らしい」解を見出してみましょう。