海外現地調査におけるマクロデータ分析 | 信頼できる情報源と分析のコツ

海外へ事業展開する上で、その国の市場を正しく理解することは、戦略立案のまさに第一歩です。特に、自社ではコントロールできない外部環境、すなわち「マクロ環境」を分析することは、羅針盤を持たずに航海に出ることのないよう、自社の進むべき方向を定める上で極めて重要といえます。今回は、海外の現地市場調査におけるマクロデータ分析に焦点を当て、その目的から、信頼できる情報ソース、そして分析を成功させるための実践的なポイントまで、専門家の視点から丁寧に解説していきます。

目次

なぜ海外市場調査でマクロ分析が不可欠なのか?

市場調査と聞くと、顧客へのアンケートや競合製品の比較などを思い浮かべる方が多いかもしれません。勿論それらも重要ですが、より大きな視点、つまりマクロ環境を捉えずして精緻な戦略を練ることはできません。マクロ分析とは、いわば事業を取り巻く「土壌」や「気候」を理解する作業です。どんなに優れた種(製品やサービス)も、育つ環境が合わなければ芽吹くことはないでしょう。

戦略の土台となる「変化の兆し」を捉える

マクロ環境分析の代表的なフレームワークにPEST分析があります。これは、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の4つの観点から外部環境を分析する手法です。例えば、進出先の国で環境規制が強化される(政治)ことは、一部の企業には脅威ですが、エコ製品を扱う企業には大きな機会となります。あるいは、現地の所得水準が向上している(経済)、若年層の人口が増加している(社会)、特定の技術が急速に普及している(技術)といった変化は、すべて新しいビジネスチャンスの源泉となり得ます。 こうした「変化の兆し」をいち早く掴み、自社の戦略に活かすことこそ、マクロ分析の重要な目的なのです。

海外調査に役立つマクロデータの情報源【国内編】

本格的な分析には海外の情報ソースが不可欠ですが、まずは日本語でアクセスできる国内の情報源から大枠を掴むのが効率的です。特に、海外展開の初期段階においては、これらの情報源が非常に心強い味方となってくれるでしょう。

JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)

海外調査の第一歩として、まず確認すべきサイトといっても過言ではありません。 各国の基本情報、貿易制度、市場レポートなどが非常に充実しており、日本語でこれだけの情報が網羅されているのは他に類を見ません。 特に「世界貿易投資報告」や国別の概況レポートは、対象国をマクロな視点で理解する上で必読です。

経済産業省

海外市場調査で例えば現地の競合分析を行う際に、現地企業に加えて現地に輸出もしくは進出している日本の同業他社の動きも把握しておく必要があります。そのうち、現地法人を構えて本格的に事業展開している企業の状況を知る際に重宝するのが経済産業省が行っている海外事業活動基本調査や海外現地法人四半期調査等があります。経済産業省の統計ページのサイトからリンクをたどると主に政府統計データポータルサイトのe-Statのサイトで閲覧が可能です。

財務省

財務省のサイトでは貿易統計を閲覧可能です。但し、使い勝手が良いとはいえず、前提条件の理解も必要であり、かつ、項目のグルーピングの粒度が粗いため、網羅的な調査レポート等を作成であれば話は別ですが、企業の具体的実務の観点からは参考程度の位置づけで良いかと思います。

外務省

経済関連の情報はJETRO等の経済産業省管轄の組織の情報で概ね網羅でき、一方の政治や外交関係の情報は外務省のウェブサイトから情報入手できます。また、現地日本大使館のサイトも併せて確認することでタイムリーな情報を収集しておくと良いでしょう。

シンクタンク・コンサル

現地の基本情報ではなく、現地の特定のテーマの調査レポート等においては、民間のシンクタンクやコンサルの調査レポートが参考になります。国内有名どころで海外の調査等でも実績があるシンクタンクは野村総合研究所や三菱UFJリサーチ&コンサルティング、みずほ総研等が挙げられます。尚、矢野経済研究所は国内市場向けの調査レポートではプレゼンスがありますが、海外においてはその限りではありません。

コンサルではマッキンゼーやBCGを筆頭に主に外資系コンサルティングファームのレポートの品質が高く、内容が充実しているためお勧めです。尚、外資系コンサルは文字通り本社は外資なので英語で検索するとよりレポートの幅も量も増えるため、英語で調べてみると更にカバレッジが広がります。

e-Statとは?

国は様々な省庁を抱えており、各省庁や首相官邸含めて様々なデータを各々が公開しています。一方でどこの省庁がどのような情報を管轄として調査・定点観測しているのか分からない人も少なくありません。そのためユーザービリティ、一元管理の観点から政府の各種統計データを集約・閲覧できるポータルサイトとしてe-Statがあります。e-Statに直接アクセスして検索も可能ですし、各省庁のサイトでお目当ての統計データをクリックしていくと結果的にe-Statにたどりつくケースが昨今は多く、きちんと集約の機能を果たしていると言えます。

海外現地調査に役立つ海外の情報ソース

続いて英語検索が前提となりますが、より充実した情報が必要な場合は、海外サイトを活用しましょう。情報の質や量、出所としての妥当性の観点からお勧めのサイトをご紹介します。

World Bank

世界銀行のオープンデータベースはマクロ情報が充実しており、データのダウンロード可能でCC BY 4.0にも対応しています。何よりユーザービリティが良く英語が苦手な方でもお勧めであり、出所としても申し分ないでしょう。最初の英語サイトの紹介になりますので基本的な操作方法も併せてご紹介します。基本的にはどのサイトも検索方法は大きく変わらないので操作のイメージを掴んで頂ければ幸いです。

情報の充実度、ユーザービリティ、ビジュアライゼーション、データ出所の信憑性としても◎

Step1 – 国軸

Step2 – 国軸

関連指標や絞り込み、データのダウンロードが可能です。

Step1 – 指標軸

検索窓に英語で指標を入力すると候補が出てくるので選択します。

Step2 – 指標軸

関連指標や絞り込み、データのダウンロードが可能です。

いかがでしたでしょうか。思った位以上にシンプルな印象に感じませんでしたかユーザービリティの良さですよね。 是非、世界銀行のオープンデータベースを使いこなしてマクロデータの調査時間を短縮しましょう。

United Nation

国連のサイトです。外部の公開データも含まれていますが、国連独自の情報もありますので念のため確認しておきましょう。データセット、ソース、トピックの3つの軸で整理されていますので比較的求めている情報がどこにあるのか辿り着きやすいといえます。

国連自前のデータ及び外部のオープンデータを、データセット、ソース、トピック別で一元管理。

IMF

世界銀行と並び、経済・金融分野のデータで非常に権威のある機関です。 特に、年2回公表される「World Economic Outlook(世界経済見通し)」は、世界各国の経済成長率予測などを知る上で欠かせないレポートです。 金融市場の安定性や為替動向など、より金融セクターに特化した分析を行いたい場合に重宝します。

経済/財務情報に加えて、IMF独自のWorld Economic Outlookレポートは有名、操作も直感的。

World Economic Forum

「ダボス会議」で知られる世界経済フォーラムも、質の高い調査レポートを多数公開しています。 デジタルトランスフォーメーションやサステナビリティ、未来の働き方といった、現代的なテーマに関する示唆に富んだレポートが多く、マクロ環境の中でも特に「変化」の最前線を捉えたい場合に非常に役立ちます。

トレンドや重要テーマの調査レポート、ホワイトペーパーが充実しており調査の深堀にお勧め。

ITU

ITUはInternational Telecommunication Union=国際電気通信連合であり、無線通信、電気通信の標準化と規制確立を推進しており、情報社会のインフラについて統計データを公開しています。マクロ分析のPESTのうち、Tのテクノロジーまわりの基盤・土台となるインフラ部分の調査項目として有効です。

マクロ分析のPESTのうち、Tのテクノロジーまわりの基盤となるインフラの調査としてお勧め。

Asia Development Bank

アジア諸国のマクロデータ分析においては、アジア開発銀行のデータサイトも確認してみましょう。アジアに特化している分、内容も他のグローバル全体をカバーするサイトでは情報粒度が粗い国において深度ある情報が期待できます。

アジア開発銀行のデータライブラリでは、アジア諸国×主要トピックでマクロデータ等を公開。

マクロデータ分析を成功に導く3つのポイント

さて、ここまで信頼できる情報源をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。最後に、これらの情報を最大限に活用し、分析を成功させるための重要なポイントを3つお伝えします。

ポイント1:仮説を持って情報収集にあたる

市場調査で陥りがちなのが、目的のないまま延々と情報収集を続けてしまうことです。 これでは単なる情報の「収集家」で終わってしまいます。重要なのは、調査を始める前に「おそらくこの国のこの市場は、〜という理由で成長しているのではないか?」といった初期仮説を立てることです。 仮説があれば、それを検証するために必要なデータが明確になり、効率的に調査を進めることができます。仮説が正しくても、間違っていても構いません。その検証プロセス自体が、市場への深い洞察に繋がるのです。

ポイント2:日本語ソースと海外ソースを使い分ける

先述の通り、まずは国内ソースで大枠を掴み、仮説を立て、その仮説を海外ソースの一次情報で検証・深掘りするという流れが最も効率的かつ効果的です。 海外の情報ソースは情報の宝庫ですが、その膨大さゆえに、何の準備もなしに飛び込むと溺れてしまいかねません。国内ソースで「当たり」をつけ、海外ソースで「確信」を得る。この使い分けを意識しましょう。

ポイント3:データは「分析」して初めて価値を持つ

最も重要なことですが、データは集めただけでは単なる数字や文字の羅列に過ぎません。そのデータが「何を意味するのか?」、そして「自社の戦略にとってどのような示唆があるのか?」を考え抜く「分析」のプロセスを経て、初めて価値ある情報に昇華されます。例えば、単に「若年層が多い」というデータだけでなく、「その若年層はどのような価値観を持ち、何にお金を使っているのか?」まで踏み込んで考察することで、具体的な戦略の糸口が見えてくるのです。

海外市場調査でお悩みなら、ティアにご相談ください

ここまで、海外の現地調査におけるマクロデータ分析の重要性から、具体的な情報源、そして成功のためのポイントまでを解説してきました。マクロ分析は、海外展開という未知の航海における、信頼できる海図を作成する作業です。しかし、多忙な業務の中で、膨大なデータを収集・分析し、そこから戦略的な示唆を導き出すのは、決して容易なことではありません。

もし、「どこから手をつけていいかわからない」「分析は行ったものの、次の戦略にどう繋げればいいか悩んでいる」といった課題をお持ちでしたら、ぜひ一度ティアにご相談ください。私たちは、海外マーケティングの専門家として、これまで数多くの企業様の海外展開をご支援してきました。貴社の状況に合わせた最適な市場調査の設計から、戦略立案、そして実行まで、一気通貫でサポートいたします。

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