今も昔も海外事業を展開する企業を中心に必要とされる「グローバル人材」。コロナ禍においても、またwithコロナを前提とした先々においても、グローバル人材のニーズは減ることはなく、むしろ日本の場合は、人口減による内需縮小から更にニーズが増えると考えられます。尚、このあたりのグローバル人材の需要やそもそもの定義については世界で活躍するグローバル人材とは?求められる理由【令和版】に纏めましたので事前に一読を推奨します。
さて、当然のことながら優秀なグローバル人材の獲得は、容易ではなく、多くの企業の採用担当者が頭を悩ませています。今回はそんなグローバル人材採用における課題について解説します。
海外進出企業のグローバル人材の採用状況
まずは、グローバル人材を求める企業の現状について確認していきましょう。2017年のデータにはなりますが、総務省が実施した「グローバル人材の確保状況等に関する企業の意識調査」は、特に需要のある海外進出企業に対してアンケートを実施したものでサンプル数も約1000社あるため参考になります。以下同レポートの中から要点を絞り、それらの結果に対してTIER独自の視点も踏まえて解説します。
海外事業の課題
先ずは最初に海外事業においてどのような課題があるのか、以下具体的な課題の多い順、複数回答ベースです。
1位 外国語の能力不足による営業上のトラブル – 27.1%
2位 海外赴任の拒否 – 25.1%
3位 優秀な外国人社員の退社(人材流出) – 23.6%
4位 海外赴任中の社員が現地に適応できず帰国 – 22.3%
5位 優秀な日本人社員の退社(人材流出) – 19.6%
6位 日本人社員と外国人社員との間のトラブル – 14.5%
それでは順番にポイントを見ていきましょう。
語学に起因するトラブル
語学に起因するトラブルはイメージが沸くと思います。国内でさえ、言った言わないでトラブルになることはよく聞きますし、まわりでも時折そのようなトラブルを経験した方はいらっしゃるのではないでしょうか。それが第一言語ではない外国語でコミュニケーションとなると、更にトラブルのリスクが高くなるのは明らかと言えます。
補足:海外では契約書締結は忘れずに
日本人は契約書を取り交わすこと=相手を信頼していないと考えてしまう企業が中小企業を中心に少なくありません。そのため契約書の締結なしで取引を進めてしまい、前述の通り、後で言った言わないのトラブルに発展するため、特に海外においては契約書は必須であることは補足しておきます。
本人による駐在の拒否
続いて、これは一瞬意外に映るかと思いますが、海外駐在を拒否するケースが少なくありません。しかし、内訳をみると、多くは親の介護や子供がまだ小さい等の家庭の事情です。特に親の介護については、世界的にも少子高齢化が著しい日本にとって大きな社会課題といえます。企業としても、優秀なグローバル人材を採用できたとしても、先々本人の意向とは別の理由で、現地での即戦力として送り出すことができない可能性も十分にあることは念頭に入れておきましょう。
優秀な外国人材の流出
現地の日系企業に限らずグローバル全体では、雇用して育成して戦力になったら、給料が高い企業や遣り甲斐のある別の企業へ転職するジョブホッピングは時代の流れとしてもある種の不可抗力と言えます。
特に、日本の従来の年功序列・終身雇用型では、能力よりも先に入社したかどうかで主従関係はもちろん、業務内容も給料も決まる企業の方が多いため、外国人からすると実力で評価される日系以外の企業に行きたい人は少なくありません。日本の企業でも「郷に入っては郷に従え」で組織体制や評価基準・給与設定も現地に合わせて行っている企業もありますが、日本の本社の制度との兼ね合いもあるため、ジレンマを抱える現地法人が多い事実です。
駐在員が現地に適応できず
続いて現地に適応できずに帰国するパターンです。新しいことが好き、挑戦が好きといった性格の方や学生時代に留学経験がある等の異国・異文化での生活経験があれば、現地でも比較的能力を発揮しやすいといえます。しかし、変化のない安定した生活を求める方や海外での生活経験がない方は、オンもオフも新しいこと/慣れないことだらけでストレスに苛まれてしまうこと人も少なくありません。
また、コミュニケーションを取るのがそもそも得意でない人や、グローバル人材としての素養はあるものの、そもそも本人が海外での生活を望まない人もいます。彼らは新しい環境に加えてダブルパンチでストレスとなるためよりタフな生活になるといえます。
また海外駐在では社内でも社外でも日本人同士が小さな村のように付き合うケースも少なくありません。海外にいるとマイノリティになるため結束が強くなりがちですが、良い面も悪い面もあり、特に年配世代と若手世代では温度差がありがちです。自分の距離感で付き合えないとストレスになる点も注意が必要です。
海外駐在をする、あるいは人を選ぶ際は、そのあたりを踏まえて検討することが組織にとっても個人にとっても重要と言えます。
優秀な日本人社員の流出
先ほどは外国人材の流出について見てきましたが、次は優秀な日本人社員の流出になります。内訳をみると、本人もしくは家族が現地を気に入り、本社を退職して現地法人に就職するケースや本人がスキルアップのために他の現地企業に転職するケース、グローバル人材候補として採用したもののワーホリ等で退職するケース、なかなかポストが空かず退職するケース、日本と海外の仕事の仕方にギャップがあり結果的に退職するケース等が挙げられています。どれもよく耳にする内容ですが、ここでは2つに絞ってポイントを取り上げます。
本人のスキルアップによる退職
既に日本でも、リンダ・グラットンの著書ワークシフト等の影響もあり「人生100年時代」が広く浸透しました。
人生100年生きる前提では、VUCAの時代に一つの会社に定年まで勤めるようなモデルの方がリスクがあると考えることもできます。結果として、年々転職市場が活性化していることは、肌感覚でも分かるのではないでしょうか。
そのため海外経験を積んだことで、今後の自分の目指すキャリアを実現するために、新しい道へと進む人材が増えることに驚きはありません。むしろ時代の流れと言えます。
また、これは前述の優秀な外国人材のジョブホッピングに通ずる動きです。視点を変えれば、「人材の流動性が低かった日本も海外と差がなくなってきた」とも言えます。
国内勤務と駐在時の業務内容のギャップ
これは駐在する時は比較的問題ありませんが、帰国後に問題となりがちです。現地駐在は国内と比べて少数の駐在員でマネジメントするため、仕事の幅も裁量も大きくなります。特に若手で行くとその差は大きく、帰国後に物足りなさを感じ転職するのは実はよくある問題になるケースです。駐在後によりチャレンジングな業務に付ける等の帰国後のキャリアも見据えて送り出すことが社員の離職を防ぐ上で極めて重要と言えます。
日本人・外国人社員同士のトラブル
こちらは非常によく見られるケースです。よくある原因は以下になります。
日本の古き商慣習を所与とした運営
年配に多いと言えますが、年功序列組織に長く身を置くことで慣れてしまった悪い意味での部下への接し方、「阿吽の呼吸」や空気を読めといった風潮、教えてもらうのではなく先輩の背中をみて学べといった考え、ほぼ強制的な飲み会等、それら昔ながらの日本式スタイルで外国人社員に接すると辞めてしまうのは無理ないと考えます。
本社をみて仕事している
駐在員は基本的に3年から5年程度で入れ替わります。反対に、現地法人で働く現地の外国人社員からすると、退職しない限りはずっとそこで働き続けます。現地法人設立から社歴が長いほど、現地の外国人社員の方が経験も知見も自負もあるため、期限が決まっている前提でマネジメントとして駐在に来る人達を受け入れることはしても、大歓迎することはあまりないでしょう。
そこで例えば現地外国人社員がせっかく良い提案をしても、本社を優先して取り合わないケースは少なくありません。「話はしたけど本社がNGだった」とフィードバックしても、現地の外国人社員もその駐在員がどこまで本気で自分たちの提案を本社に説明してくれたかは分かっているものです。「結局、駐在員は本国の本社をみて仕事をしている」と言われる所以です。
グローバル人材の採用状況
グローバル人材を特に求める海外進出企業が海外事業を推進するにあたっての課題を見てきました。次は、そのような企業のグローバル人材の採用状況に関して、同レポートのデータを基にTIER独自の視点を踏まえて解説します。
約7割の企業が海外事業に必要な人材が不足している
7割の内訳は「不足している」「どちらかといえば不足している」で構成され、多くは「どちらかといえば不足している」回答していますが、依然としてグローバル人材市場は需要過多と言えます。2022年7月現在においてもグローバルで戦ってる大手企業の人材採用は激化しており、グローバル企業に対してコンサルティングサービスを提供する大手コンサルファームも人材が足りていない状況であり、コロナ禍収束に兆しのある現在においても慢性的な課題と言えます。
海外事業ノウハウを有する日本人の中途採用ニーズが最多
海外事業に必要な人材の採用状況(複数回答)の問いに対しては、「国内のノウハウのある日本人(中途採用)」が約6.5割、「国内の日本人の新卒者」約6割、「国内の外国人」が約4割、「海外の外国人」が約3割の回答になります。
中途採用により即戦力として早期に企業の競争力を強化したい意向が相対的に多いことが読み取れます。但し、6割の企業は日本人の新卒採用と回答しており、即戦力ありきではなく中長期の視点で育てていく方針の企業も同じ位存在する点は念頭に入れておきましょう。また複数回答であるため、基本的には新卒一括採用は日本の一般的な雇用方式の為、それと並行して即戦力として中途も強化していると捉える方が実態に近いと考えられます。
外国人材の採用企業も3社に1社と決して少なくない
また、相対的に日本人と比べて外国人採用の企業は少ないですが、それでも国内の外国人を4割、海外の外国人を3割の企業が採用しており、3社に1社は外国人を雇用している考えると、決して少なくない企業の数といえます。尚、対象企業は海外進出している企業であるため、現地の外国人社員も含まれていると考えられます。そのため、現地法人を持たない日本の海外展開している企業だけの数字ではないことから、妥当な数字だと考えられます。
終わりに
さて、いかがでしたでしょうか。特にグローバル人材需要の大きい海外進出企業のデータを基に課題と採用状況についてみてきました。最後に、ダイバーシティ/インクルーシブ志向が外国人材の更なる採用を促す可能性について触れて終わりにしたいと思います。
昨今ではイノベーションが今まで以上に重要となり、企業がイノベーションを実現するためには、同質性の組織から抜け出す必要があります。そのためには、ダイバーシティやインクルーシブの視点で組織・ヒトをアップデートすることが重要であり、今後は今まで以上に日本人だけでなく、外国人と働く機会が増えていくものと考えられます。
そそうなると「語学力があり、異文化理解があり、チャレンジ精神旺盛」なグローバル人材の採用が益々活性化する状況であると考えられます。