BtoB企業のマーケティング戦略において、SNSの活用はもはや無視できない潮流となりました。数多あるプラットフォームの中でも、特に海外展開や専門性の高い領域でのビジネスを考える法人にとって、LinkedInの戦略的価値は計り知れません。しかし、そのポテンシャルとは裏腹に、「ビジネス向けのSNS」という漠然とした認識に留まり、具体的な活用方法まで深く理解されているケースはまだ少ないのが実情ではないでしょうか。
本記事では、輸出や海外販路開拓を目指す企業様を念頭に、単なる法人アカウントの作成手順に留まらず、その先にあるマーケティングや営業活動で成果を最大化するための戦略的な活用方法まで、実務視点から丁寧に解説していきます。2025年現在の最新情報に基づいておりますので、これからLinkedIn活用を本格化させたい、あるいは既に運用しているが見直したいというご担当者様の一助となれば幸いです。
なぜ今、BtoBマーケティングでLinkedInが最重要なのか?
FacebookやX(旧Twitter)といったSNSが個人の日常的な交流を主眼に置くのに対し、LinkedInは一貫して「ビジネス」に特化したプラットフォームである点に、その本質的な価値があります。LinkedInが掲げる「世界で働くすべての人のために、経済的なチャンスを作り出す」というビジョンからも、その姿勢は明確です。アクティブユーザー数が単純に多いという理由だけでプラットフォームを選定してしまうと、投下したコストに見合う成果が得られず、結果としてターゲットとは異なる層にアプローチしていた、という残念な事態に陥りかねません。
その点、LinkedInはユーザー自身がビジネス目的で利用しているため、ビジネス関連の情報に対する反応が他のSNSと比較して格段に高い傾向にあります。世界200カ国以上、9億人を超えるビジネスパーソンが利用するこの巨大な経済圏は、海外の見込み客へリーチするための強力な基盤と言えるでしょう。更に特筆すべきは、ユーザーの5人に4人が企業の意思決定に関与しているというデータです。営業活動において、いかにして決裁者にアプローチするかは永遠の課題ですが、LinkedInはその課題に対する極めて有効な答えの一つを提示してくれているのです。
LinkedIn法人アカウント(会社ページ)で実現できる4つのこと
さて、LinkedInの重要性を理解した上で、法人がアカウント(会社ページ)を持つことで具体的に何が実現できるのでしょうか。その目的は、主に「ブランディング」「マーケティング」「営業」「人材採用」の4つに大別できます。これらは独立しているようでいて、相互に作用しあうことで企業の成長を加速させます。
- 信頼性を構築する「ブランディング」
法人ページは、企業の公式な「顔」として機能します。事業内容やビジョン、企業文化といった情報を発信することで、自社がどのような価値を提供できる専門家集団であるかを内外に示すことができます。特に、海外の取引先候補が情報収集を行う際、しっかり作り込まれた法人ページの存在は、信頼性を担保する上で重要な要素となります。 - 見込み客を育てる「マーケティング」
ターゲット顧客にとって価値のある専門的なコンテンツ(業界レポート、課題解決のヒント、技術解説など)を継続的に発信することで、自社の認知度を高め、将来の顧客となる潜在層との関係を構築します。これは、いわゆるコンテンツマーケティングの考え方をLinkedInというプラットフォームで実践するイメージです。 - 商談機会を創出する「営業」
私たちの経験でも、ここがLinkedIn最大のメリットだと考えます。詳細な検索機能を活用し、ターゲット企業の特定の役職者や担当者をピンポイントで探し出し、個別のアプローチが可能です。従来のテレアポや飛び込み営業とは異なり、相手のプロフィールや関心事を把握した上でコンタクトが取れるため、より質の高い商談機会の創出が期待できます。 - 優秀な人材を獲得する「人材採用」
LinkedInは、もともとリクルーティングのツールとして日本で普及した経緯があります。現在もその機能は強力であり、求めるスキルや経験を持つ人材を検索し、直接スカウトすることが可能です。特に、グローバルな活躍ができる専門人材を探す上では、非常に有効なチャネルと言えるでしょう。
【実践】LinkedIn法人アカウントの開設手順
それでは、いよいよ法人アカウントの具体的な開設手順について解説します。プロセス自体は決して複雑ではありませんが、いくつか事前に確認すべき点があります。スムーズに開設を進めるためにも、一つずつ着実に確認しながら進めていきましょう。
開設前に確認すべき6つの前提条件
さて、具体的な開設手順に話を進める前に、いくつか確認しておくべき前提条件があります。いざ作成しようとした際に「なぜか作成できない」といった事態を避けるためにも、ここでしっかりと押さえておきましょう。これらはLinkedInが定めるルールであり、法人ページとしての信頼性を担保するためのものと理解すると分かりやすいかもしれません。
- 法人ページの未存在確認
先ず、当然のことながら、作成を予定している会社のページが既に存在していないかを確認する必要があります。 - 個人プロフィールの存在期間
個人のLinkedInプロフィールが作成されてから最低でも7日間が経過している必要があります。これは、安易に作られたスパムアカウントによる法人ページの乱立を防ぐための措置と言えるでしょう。 - プロフィールの完成度
個人のプロフィールの完成度が「中級」以上であることが求められます。職歴やスキルといった各項目を十分に埋め、アクティブなユーザーであることを示す必要があります。 - 一定数の「つながり」
個人アカウントにおいて、複数の「つながり(他ユーザーとの接続)」が必要です。具体的な人数は明記されていませんが、一定のネットワークを形成していることが条件となります。 - 現在の勤務先としての登録
ご自身のプロフィールの「職歴」セクションに、これから作成する法人ページの会社に、現在勤務している従業員として登録されていることが必須です。 - 会社ドメインのメールアドレス
最も重要な点として、会社固有のメールドメインを持つメールアドレス(例:yourname@company.com)が、個人のLinkedInアカウントに登録・認証済みである必要があります。gmail.comのようなフリーメールや、info@のような代表アドレスでは作成できないため注意しましょう。
法人アカウント開設の具体的な4ステップ
前提条件がクリアできていることを確認したら、いよいよ開設作業に入ります。画面の指示に従っていけば直感的に進めることができます。
- 「ビジネス向け」メニューへアクセス
LinkedInにログイン後、画面右上にある「ビジネス向け」のアイコンをクリックします。するとメニューが表示されますので、その一番下にある「会社ページを作成」を選択します。 - ページの種類を選択
次に、作成するページのタイプを選択する画面に移ります。「会社」「ショーケースページ」「教育機関」の3つの選択肢が表示されますが、通常の事業会社であれば「会社」を選びます。「ショーケースページ」とは、特定の事業部門やブランドに特化した子ページのようなもので、必要に応じて後から追加が可能です。 - 会社情報の入力
会社の正式名称、LinkedIn上での公開URL(例:linkedin.com/company/your-company-name)、自社のウェブサイトURLを入力します。続いて、業種、会社規模、会社の種類といった基本情報を選択していきます。 - プロフィール詳細の設定と公開
最後に、会社のロゴ画像と、ヘッダーとして表示されるカバー画像を設定します。また、企業のタグライン(短い紹介文)を入力します。すべての項目を埋めたら、ページ作成の同意チェックボックスにチェックを入れ、「ページを作成」ボタンをクリックすれば、法人ページの開設は完了です。
開設後は、企業の詳細な説明(250〜2000文字)や所在地などを「会社概要」セクションで編集し、内容を充実させていくことが重要です。
成果を最大化するLinkedInアカウント運用の3つの要諦
法人ページは、開設して終わりではありません。むしろ、そこからが本当のスタートです。ただ漫然と情報を発信するだけでは、期待する成果は得られないでしょう。ここでは、BtoBマーケティングで成果を出すための運用の要諦を3つに絞って解説します。
要諦1 価値あるコンテンツでエンゲージメントを醸成する
運用の核となるのは、やはりコンテンツです。しかし、よくある間違いが、自社製品やサービスのPRに終始してしまうことです。それではユーザーにとって価値のあるコンテンツとは言えません。
考えるべきは、「ターゲット顧客が抱える課題は何か?」「彼らが本当に知りたい情報は何か?」という視点です。
例えば、業界の最新動向レポート、専門的な技術の解説、顧客の成功事例、あるいは業務効率化に役立つノウハウといった、売り込み色がなくとも相手にとって有益な情報を提供し続けることが、結果として自社への信頼(エンゲージメント)を醸成し、将来的なビジネスへと繋がっていきます。ビル・ゲイツの「人は一日にできることを過大評価し、一年で出来ることを過小評価する」という言葉を思い出し、長期的な視点で種を撒くという発想が重要と言えます。
要諦2 「つながり」を戦略的に活用し、意思決定者へリーチする
LinkedInの「つながり」は、単なる友達リストではありません。これは、ビジネスにおける貴重な人的ネットワーク資産です。特に注目すべきは「2次のつながり」です。これは、あなたとターゲット顧客の間に共通の知人がいることを意味し、その他多くの競合他社よりも圧倒的に優位なポジションにいることを示しています。
その共通の知人を介して紹介を依頼するという選択肢が生まれるのです。勿論、その際は紹介者の顔に泥を塗るような一方的なお願いではなく、三方良しの関係性を築けるような丁寧なアプローチが求められることは言うまでもありません。
また、有料プランを活用すれば、直接つながりのないユーザーにも「InMail」というメッセージを送ることが可能です。年間契約で月額数千円からという投資で、直接決裁者にアプローチできる可能性を考えれば、十分に検討の価値があるマーケティングコストと言えるのではないでしょうか。
要諦3 LinkedIn広告を効果的に運用し、機会を創出する
オーガニックな運用でじっくりと関係性を構築していくアプローチに加え、予算が許すのであれば広告の活用も有効な選択肢です。LinkedIn広告の強みは、その精緻なターゲティング能力にあります。業種、役職、企業規模、地域といった詳細な条件でオーディエンスを絞り込めるため、無駄打ちが少なく、費用対効果の高いアプローチが可能です。
しかし、ここで注意すべきは、広告をクリックした先のランディングページ(自社サイトや資料ダウンロードページ)の品質です。バスタブの栓が抜けたままお湯を注ぎ続けるようなもので、リンク先のコンテンツが魅力的でなければ、せっかく集めた見込み客もすぐに離脱してしまいます。広告を出稿する前には、受け皿となるコンテンツがコンバージョン視点で最適化されているかを必ず精査するようにしましょう。
LinkedIn活用で失敗しないための注意点
最後に、LinkedInを運用する上で陥りがちな失敗と、それを避けるための注意点に触れておきます。それは、「売り込み」に終始しないということです。特に、個別メッセージでいきなり自社製品を売り込むような行為は厳禁です。相手との信頼関係が構築されていない段階での売り込みは、かえって心象を悪くし、貴重なビジネスチャンスを永遠に失うことになりかねません。
つながり申請をする際も、定型文をそのまま送るのではなく、相手のプロフィールをしっかりと読み込み、「あなたの〇〇というご経験に感銘を受けました」「貴社の〇〇という取り組みに関心があります」といったように、なぜあなたとつながりたいのかを具体的に、そして丁寧に伝えることが、承認率を高める上で極めて重要です。
まとめ
さて、ここまでLinkedInの戦略的な重要性から、法人アカウントの具体的な開設手順、そして成果を出すための運用方法まで一通り解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。LinkedInは、単なるSNSではなく、BtoB、特にグローバルな市場で戦う企業にとって、ブランディング、マーケティング、営業活動を統合的に推進できる強力なビジネスプラットフォームです。
その機能を最大限に引き出すためには、小手先のテクニックに走るのではなく、「顧客にとっての価値とは何か」というマーケティングの本質に立ち返り、長期的な視点で粘り強く情報発信と関係構築を続ける姿勢が何よりも大切です。この記事が、皆様のLinkedIn活用の羅針盤となり、新たなビジネスチャンスの創出に繋がることを願っています。
ティアの海外WEBマーケティング支援について
本記事で解説したLinkedInの活用は、海外WEBマーケティング戦略における有効な打ち手の一つです。しかし、成果を最大化するためには、ターゲット市場の深い理解に基づいた戦略設計、各チャネルを連携させた施策の実行、そして継続的な効果測定と改善が不可欠となります。
私たちティアは、これまで数多くの企業様の海外WEBマーケティング領域のご支援をし参りました。市場調査から戦略立案、ウェブサイト制作、LinkedInを含む多角的なデジタルマーケティング施策の実行まで、ワンストップでサポートいたします。「何から手をつければ良いかわからない」「既に始めているが成果が出ない」といった課題をお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。貴社のビジネスに最適な解決策を共に考え、提案させていただきます。