貿易実務でややこしいプレーヤー達
これから貿易実務を始めようと調べ始めた時に、よく見聞きする登場人物。乙仲、フォワーダー、通関業者、海貨業者。ある人は乙仲と言い、別の人は通関業者と言い、また他の人はフォワーダーと言い、とはいえ、教科書的な本では海貨業者とよく表現される。この微妙によく分からない違いゆえに、「なんか不安、大丈夫かなぁ」と心配になり、あまり先に進めない、そんな状況、あるいはご経験はないでしょうか。
正直、知らなくても貿易実務は回る。
貿易のプロである商社の人間でも厳密にこれらの違いを知っている人は少なく、誤解を恐れず言えば、あまり気にしなくてよいことです。知らなくても実務は回っていきます。なぜなら目的志向で「自社で通関できないため、通関が出来て、現地バイヤーが指定する場所まで届けてくれる」企業を探せばよいだけであり、基本的にそれらは貿易・国際物流業界でも企業が激しく鎬を削っている市場ですから、コア機能である通関と海上輸送(空輸)は当然のように多くの企業が顧客ニーズベースでワンパッケージでカバーしているからです(輸送のハードインフラを有しているか否かは別として)。
海貨業者を起点に、歴史・市場競争の時間軸を意識すると分かり易い。
より実務的な視点で言えば、輸出、あるいは貿易実務の担当者が、後はこの製品を輸出手配してくれる業者を見つけるだけと分かった段階で、業者選びに入るでしょう。その際に、「通関業者」と調べるのか、「乙仲」と調べるのか、「フォワーダー」と調べるのか、「海貨業者」で調べるのか、入口は何でもよくて(最終的には同じ出口に出るため)、知っているものから順に検索すれば数ページに渡り出てくる顔ぶれが似たり寄ったりであることが分かってきます。また、企業戦略の視点でもニーズを抱えている人に自社サイトを見つけてもらうための取り組みがされています。例えばわかり易い例として、試しにグーグルのシークレットモードで検索したら、上記4ワードいずれの検索結果にもヤマトグループのリスティング広告が表示されていました。よって実務上はさほど問題になりません。
とはいえ、やはり違いはざっくり知るにこしたことはないのでざっとポイントを把握しましょう。
先ずは入口として教科書的な本でよく表現される海貨業者から考えていきましょう。
海貨業者は「港湾」がポイント
先ずは海貨業者。正式名称は海運貨物取扱業者です。海運貨物取扱業者は、港湾運送事業法の免許に基づいているため、文字通り、港湾においての運送、また運送に付随して荷役を行う事業者です。では、港湾での運送・荷役が何かというと、港湾内のエリアで陸地と船舶の間で実施される貨物の積卸作業と運送になります。つまり、港湾内で陸から船にモノを入れたり、船から陸にモノを下ろしたり運んだりしているのです。
厳密には今現在「乙仲」という言葉は法的に存在しないと理解する
教科書的にスタンダードとして紹介される海貨業者が何かを理解したうえで、次は時系列に確認していきます。乙仲です。戦前の海運組合法で定期船貨物の取次をする仲介業者を乙種仲立業、すなわち「乙仲」と分類していたことが由来ですが、同法は1947年に廃止。しかし名残として、現在でも海貨業者のことを乙仲と呼ぶに至ってるとのこと。取次業が概ね先述の海貨業者の仕事内容であり、法律面から廃止された乙仲の分類が消えたことで、乙仲という言葉は法的には消滅しましたが、業務的には概ね類似した内容の海貨業者を指して名残で乙仲と呼んでいるということです。
通関は輸出入及び附随する税関連の代理手続きと捉える。
さて、海貨業者と乙仲の違いを理解したとして、ひとつ疑問に思うことがあります、先述の海貨業者の業務をみていても通関という言葉が出てきていませんね。港湾運送事業法が定めているの内容は、あくまで港湾内のエリアでの船舶と陸地との間で実施される貨物の積卸作業と運送の許可です。そう考えた場合に、通関業者は何の法律の許可を得ている業者かで違いが見えてきそうですね。
そこで、通関業者ですが、通関業者は通関業法で規定されています。通関業法で規定されている業務が、貨物の輸出入における貨物の通関及びそれに付随する、各種法的効果を伴う手続きになります。具体的には税関に対する輸出入の申告の代理であったり関税等のタックスの手続き代理になります。そう考えると港湾内で積卸作業や運送という作業とは大きく異なることが分かります。つまり、海貨業と通関業は「同じ意味だけど単に呼び方が異なる類」ではなく、全くの別物であると分かります。
フォワーダーは国際物流のオーケストラ
最後にフォワーダーをみていきましょう。フォワーダーは日本語では貨物利用運送事業者と言われています。具体的には、荷主からの依頼で貨物を引き受け、船、飛行機、鉄道、自動車を利用して運送を引き受ける、特に国際輸送の領域における事業者と言われています。
さて、明らかにこれまでとは毛色の異なる表現ですね。これまでは港湾であったり、通関における手続きであったり、個別特定の専門業務の話でしたが、フォワーダーはどちらかというとより俯瞰的な位置から見下ろして物流手段の組み合わせで、顧客の要望である貨物を特定国に輸送するという位置づけになっております。
そう考えた場合に、通関や港湾での業務は、モノをA国からB国に運ぶ際に必要なプロセスのひとつであり、そこの業務を担うのが海貨業者であり通関業者です。フォワーダーはそれらを含めて顧客の視点ベースでモノを動かすというミッションが課された存在になります。
そこを理解したうえで、今現在のそれら業者に視点を移して考えてみましょう。
業「者」ではなく「業」と考えればすっきりわかる。
ヤマトグローバルロジスティクスを例に考えてみましょう。当サイトでは、以下のような記述がされています。
「当社は陸・海・空の輸送手段と通関機能ならびに情報技術を組み合わせながら、お客様のニーズに最適なソリューションとは何かを常に考え、提案し、物流の仕組みを構築していくことを本分と捉え、このフォワーディングビジネスと通関業ならびに国際小口貨物輸送業を生業としています。」
そして、事業内容を今回関係する部分だけ切り取ると以下になります。
- 海上運送事業
- 港湾運送事業
- 通関事業
つまりいずれもカバーしているケースが多いのです。これは他の価格競争力のある主要企業を調べてもあてはまりますが、先述の通り、顧客ニーズとしても当然にワンストップで終わらせたい訳ですから、まとめてできないかといった相談ははるか昔からあるものです。そこに昔のアメリカの鉄道会社のような、うちは鉄道だからと鉄道しかやらないと考え、果ては飛行機に取って代われ衰退するといったことは繰り返しません。市場に敏感な企業、生き残っている企業は複合的に対応しているのです。
さて、そう考えると乙仲は背景上除外したとして、海貨業者、通関業者、フォワーダーと3つの違いを考えた場合に、そもそもの始まりやそれ単体で捉えた場合の役割や位置づけが異なるものの、市場競争の賜物として、顧客ニーズベースでみたらいずれも一定規模の企業になると、サービスラインナップとしてほぼすべてカバーしています。個人的には、業「者」とするからややこしい話になっているだけで、「者」を取り除き、海貨業、通関業、フォワーディング業と考えれば、出自が違うだけで、今はだいたい大手筆頭に全部カバーするよね、で終わると思います。
いかがでしたでしょうか。結論としては、厳密には異なる意味がありますが、日々の実務においては、呼び名がなんであれ、対面となる各業者の提供サービスのカバレッジは概ね変わらないため、何で呼んでも良い訳です。ちなみに私は、一番文字が少なくて言い易い「乙仲」を使っています。また、相手に合わせて、相手がフォワーダーといったら私も言葉を合わせるためにフォワーダーと言うようにしてます。その程度の話です。少しでも参考になれば幸いです。
貿易実務のオススメ本
尚、これから商社で働く、メーカー勤務等で海外取引を行う等の営業や貿易・物流担当者はゼロから膨大な貿易にまつわる知識をインプットする必要があります。私も商社出身で様々な貿易実務の本を読みましたが一番わかりやすいのが以下の本でしたの。これさえ読んでおけば概ね大丈夫という貿易実務の本の定番です。